たったひとつの冒険 ..みずほ
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| 「向こうに行ったら、ごきげんな仲間を集めておくよ」 日の当たる部屋の寝椅子に横になっていたハリデーは、「もしもあの世ってものがあるとしたら」と前置きしてから言った。 「ゲームの?」 持ち込んだコンピュータに向かっていたモローは――――もちろん横になっているハリデーの視線が自分に注がれていることにはとっくに気付いていた――――笑ってそう答えた。 「他の何を集めるっていうんだい?ああでも絶対にやらないものならある」 「当ててみようか?」 最近コンピュータを使う時にだけかけるようになった眼鏡をはずしながらモローは言った。 『会社!』 同時に発声された単語は寸分たがわず同じで、分かっていながら二人は笑った。声をたてて。 「安心した」 「うん?」 「それならそっちに行くのに退屈する心配をせずにすみそうだ」 口淋しい訳でもないのにくわえた眼鏡の蔓についての感想を聞く必要はなかった。ハリデーが手を伸ばしていたからだった。伸ばされた手に誘われて、居所を移すと抱きしめられた。
『レディ・プレイヤー1』のハリデーとオグです。 ちょこっと思いついたので。そんなに長くはならない…といいなぁ。 テーマ曲は渡辺美里氏の『My Love Your Love』でひとつ。 |
..2019/11/20(水) 17:36 No.418 |
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Re:たったひとつの冒険 ..みずほ |
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| 「なぁ、ジム」 抱擁と、それからしばらくの間続いたちょっとした接触が終わるとモローは言った。ずっと考えていたことだった。いつかは言わなくてはならないことだった。でも、あまり気乗りはしなかった。それでも言わなくてはならないのは確かなことで。そしてそれをジェームズ・ハリデーに申し出ることが出来る多分、この世でオグデン・モローただ一人だった。 「君が……、どうしてもそうしたいっていうなら……」 しかしそれを口にするには、相当な勇気がいった。拒まれたらどうしようという恐怖からだった。 「お供してもいいと思っているんだけ……ぶふっ」 それ以上何かを口にする前にモローの口はハリデーによって塞がれた。 「お願いしたくなるからそれ以上言っちゃ駄目だ、オグ」 ハリデーの顔は真剣そのもので、それでいて目は笑っていた。日の光を受けているからだけではなく、それはそれは、嬉しそうにきらめいていた。 「……駄目かな?」 「駄目もダメ」 モローはハリデーの手を握っていった。どれだけ考えた末のことなのかは、その手が震えていることから、ハリデーにもよく分かった。 「駄目に決まってるよ、心配性のオグ」 ハリデーは笑ってそう言った。
以前出した『レディ・プレイヤー1』の本の、番外編みたいな話なんですが、説明してませんでしたね。晩年、ハリデーとモロー和解してて、一緒にイースターエッグの仕掛けをやっているという設定です。 |
..2019/11/22(金) 17:35 No.419 |
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Re:たったひとつの冒険 ..みずほ |
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| 「この冒険は僕の冒険だ。だから君は君の番が来た時にゲームを開始するのがいいよ」 「……君がいてくれると思うと心強いけど……」 「他にもいるだろう?」 共通の知り合いの中にも、先に行っている者はいたが、二人が言っているのはその誰でもなかった。袂を分かつ原因のひとつになったその人の名前を口にすることはなかったが。 「うん……」 そう答えるとモローは、穏やかに微笑むハリデーの髪を撫でた。 「それに君にはこっちでの任務がある」 「任務?……ああ、そうかエッグハンティングか」 「そう。見届けてもらわないと。僕にはそれは分からない」 「そう……だね」 「土産話を楽しみにしているよ、オグデン・モロー。こんなことは、君にしか頼めない」 「了解。わがままな親友のお願いとあらば」 かがみ込んでモローは言った。 「聞かない訳にはいかないからね」 ハリデーは笑った。夢中でゲームに打ち興じた、子供の頃のように。
おつきあいありがとうございました。 ふと一緒に逝ってもいいかなと思ったオグが思い浮かびまして。 この時限りのことかもしれませんが、気が弱ることはあると思って。 エッグハントが終わって、勝者たちとのつきあいも楽しいものになって欲しいですが、いなくなった人については、どうしようもないでしょうから。 |
..2019/11/25(月) 12:53 No.420 |
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