クリスマスおめでとう! ..みずほ
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| その日は帰りが一緒になった。 それが偶然でも何でもない事を知っているのは仕掛けた当人だけだったが、その日も2人は仕掛け人の流れるような手際により、夕食を一緒にというところまで話は進んでいた。 一歩外に出れば、街はすっかりクリスマスムード一色だった。 「ふわっ……すっげえな。いつの間に……」 思わずそんな風に感想を漏らしてしまったのは、外仕事がない時期なので古巣を手伝っているうちに12月になっていたベンジーだった。 「そういえば12月だね」 一部では寒暖の差を感じないのではないかとまことしやかに噂されているイーサンだったが、さすがに最低限のTPOくらいはわきまえているので――――本当は必要ないのだが、まわりが「見ているだけで寒いから何か着て!」と叫ぶので――――世間一般の常識に合わせたコートを着ていた。実はベンジーの見立てであることは、ごくわずかな関係者しか知らないことだったが。 「もうクリスマスかぁ」 イルミネーションから零れ落ちる光をすくい取るようなしぐさをするベンジーを横目で見ながら、イーサンは当社比さりげなく尋ねた。 「クリスマスは何か予定があるの、ベンジー?」 もちろんIMF内部でそんなことをする者はいない。イーサンが、芽という芽をつぶしているからだった。 「うーん、ちょっとうまいものくらいは食べたいなぁ。クリスマス・プティングが食べたいなんて贅沢は言わないから」 ベンジーは現状を率直に語った。ということは。 「だったら……」 「うん?」 どこの店にするか物色していたベンジーは、秘密めかして言葉を濁したイーサンの方を向いた。 「覚悟しておいた方がいいよ」 「へ?」 案の定イーサンの口からは、思いもよらない言葉が飛び出して来た。 |
..2019/12/23(月) 17:52 No.421 |
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Re:クリスマスおめでとう! ..みずほ |
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| 「君は知らないかもしれないけど、クリスマスに本部で仕事をしているフィールドエージェントは、プレゼントを用意しなくちゃならないんだ」 「へ?」 イーサンは謀の匂いなど微塵もさせなかった。 「知らない?クリスマスなのに仕事だなんてあんまりだろう?」 イーサンのその意見にはベンジーも賛成だった。 「出張中なら、そんなこと考えている暇はないから忘れて……というか、そんなに思い出さないでいられるけど、本社にいたらそうはいかない、だろ?」 そんな世間話のようなことを言っていても、イーサンはチャーミング極まりないなとベンジーは見惚れそうになった。何しろ伝来のファンなもので。 「だよなぁ……まわりはクリスマス一色だもんな」 今だってそうだし、とあたりを見渡しながらベンジーは言った。暮れの風が急に身に染みるようだった。クリスマスさえなければ、ただの冬の一日に過ぎないというのに。 「そこで先達は考えた訳だ。せめて、わびしくないクレスマスを過ごす方法を」 「え?何それ?そんないいアイデアがあるのか?」 ベンジーは目を輝かせていたし、イーサンはそんなベンジーの瞳を覗き込んでいた。傍から見ればそれが、どんな風に受け止めらそうなものか、考えてはいなかった。 「ああ。クリスマスに本社で仕事をしている独り身の職員によるプレゼント交換という方法でね」 「――――プレゼント交換?」 それは確か、友達とのクリスマスパーティでやったことがあるような?子供の頃や、大人になってからも何回か、と、ベンジーの顔には書いてあった。イーサンはここぞとばかり言い募った。 「悪くない考えだと思わない?プレゼント物色という理由があれば、クリスマスショッピングも出来るし、当日の気晴らしにもなる。あちこちで盛り上がってるイベントに、自分も参加してるんだって安心感もあるし」 |
..2019/12/23(月) 17:53 No.422 |
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Re:クリスマスおめでとう! ..みずほ |
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| 「はぁ……なるほどねぇ……」 半信半疑そうなベンジーに、イーサンは駄目押しの一言を添えた。 「クリスマスに、誰かと約束がないなら夕食でもどう?なんならクリスマス・プティングも作るけど?」 「イーサンなら、クリスマスを一緒に過ごす相手の1人や2人や3人はいるんじゃないの?」 「誰もいないし、僕も1人しかないよ」 でもイーサンならかけもちも有りじゃないのか……などとぶつぶつ言っているベンジーの手を、イーサンは芝居がかって取ってみせた。 「なんならクリスマス・プティングも作るよベンジー」 「イーサンが?クリスマス・プティング作れるの?」 ベンジーは笑いながら言った。 「これから勉強する」 片手をあげ、厳かに宣言するイーサンに、ベンジーはますます笑った。 「それじゃあ、クリスマスまでに一緒に過ごしたい恋人が現れなかったらそうしよう、イーサン」 その可能性はなかった。目の前の人のカテゴリが、変わらない限りは。 しかしベンジーは、クリスマス当日までに仕事が入るか、イーサンに誰か現れて気が変わるかするんじゃないかと思っていることが明々白々だった。 それでもイーサンはめげなかった。 「それじゃ予約ね、ベンジー?」 「ああ。ブラントには俺から言っておくから」 「……ブラン、ト?」 あまりにも思いがけないことを言われると、人はこんな風に呆然としてしまうのだということをイーサンは学んだ。ベンジーといると、そういうことがよくあった。 「ルーサーには、悪いけどイーサンから声掛けてみてもらっていいかな?」 イーサンの方が、連絡ありそうだからと言うベンジーは、まったく気にした様子はなかった。 ということはつまり。 「……ブラントと、ルーサーも一緒に、って、こ、となのかな、ベンジー?」 「ああ!」 当然だろう?とでも言うように笑顔でうなずかれてしまっては、イーサンになすすべはなかった。
「美味い!まぁったくブラントもルーサーもこんな美味いもんが食えないなんてなぁ」 「予定があるんだからしようがないよ」 「ガールフレンドとかかな?っかーいいなぁ、あいつら!」 「どうかな。意外と仕事かもよ」 「言えてる!」 『は?クリスマスに食事?あいにく馬に蹴れれる趣味はないんでね』そう言われて断られたことは。 「次は何を頼もうか、ベンジー?」 ベンジーにはまだ内緒だった。
やっと終わったー! 本当はこの人達以外の話もやって、Web拍手ありがとう小話を変えられたらなぁと思ってたんですが無理でした。 原稿に取りかか前にこれだけでも!と思っていた小話が、せめてクリスマスに間に合ってよかったです。どなた様もよいクリスマスを! |
..2019/12/23(月) 17:53 No.423 |
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