| まあ大したことでもないか。 先日パソコンを漁っていたら短いお話が出てきました。 わたしこれどこかにもう載せていますかね? 調べるのも面倒なので誰か判断してください。
日付は2004年の9月です。……本当に記憶が。 他にも何かあったんだけど自分で書いたのかすらよくわかりません。
雨が降っていた。 冷たくて、痛くて、悲しくて、まるで全てを洗い流して消し去ってしまうような、そんな雨が――
新月に降る雨
土砂降りの音に紛れて足音が聞こえた。 珍しいことに、人間じゃない匂いも混じっている。人間とエルフと、もうひとつの匂いはなんだろう。 ……いや、どうでもいいことだ。自分には関係ない。
「ほら、エルもっと早く走れ。濡れるだろうが」 「そんなに、言うなら、コウ君が、おんぶしてよぉ」 粗野な声に応えたのは、小さな少女のような声。鈴が鳴るような、とでもいうのだろうか。ただし、それは走っているせいか途切れがちだった。
「エルさん、よそ見してると転びますよ?」 三つ目の声はこれといって特徴のない、比較的平凡な感じがした。あえて言うなら押しが弱そうな調子である。
「ふぇぇ。エル疲れたよぅ」 「あー……雨で煙草がしけってら」 「ちょっとコウさん、走りながら火遊びはやめてくださいって!」 「っるせーな。どうせ燃えねえよ」 「エルの愛で、燃やしてあげるぅ♪」 「いいからお前は黙って走れ、ちびエルフ」
することもなく、ただぼんやりとそんな声を聞いていた。匂いも足音も(もちろん声も)もうすぐそこまで迫っている。 きっと、大道芸人か冒険者なのだろう。チームワークはあまりよさそうではないが、そこまで悪くもなさそうだ。
彼らは大切なものを失ったことがあるんだろうか。
ふと、そんな疑問が浮かぶ。 自分たちも、チームワークはきっとよくなかっただろう。でも、悪くもなかったはずだ。
――いっしょに行こうぜ。一人旅じゃつまんないだろ?
雨に紛れて、懐かしい声を聞いたような気がした。 もう二度と聞くはずのない、泣きたくなるほど懐かしい声。
「ねぇ、宿屋まで、あと……ほぇわぁっ!?」
少女の叫びと水音で、我に返る。どうやら少女が水溜りで転んだらしかった。
「だから黙って走れって言ったのに。ほら、立てるか?」 「うん。……あっ、エルの飴!」 「まったくもう。ほら、手伝ってあげますから早く拾って拾って」
ころころという音もなく、目の前に飴玉がひとつ転がってきた。 やたらと自己主張の強い包み紙が、雨に濡れて歪んで見える。
それを拾おうと手を伸ばしたのは、人間だった。 人間は手を止め、自分の存在を見つけて幾分驚いたような色を浮かべる。
「猫……ですか?」
まじまじと見つめ、人間は首を傾げた。 こんなところで雨にうたれながら丸くなっていれば、捨て猫か何かに見えるのかもしれない。
「白蓮、何か見つけたのか?」 「はい。えっと、猫……のようなそうでないような?」
まじまじと見つめてくる深い夜の森のように黒い瞳。全然違う色なのに、なぜだかあいつの瞳と一瞬重なった。
「ずいぶん痩せた猫ですねぇ……」 「野良だからだろ」
人間が、ゆっくりとこちらに手を差し伸べる。にっこりと暖かく微笑んで。
「怖くないですよ。おいで」
反射的にその手に擦り寄ろうとして、思わず体を硬くした。 だめだ。すがってはいけない。また同じ悲しみを繰り返したくないのなら。
「怯えなくても大丈夫。ここにいたら風邪を引いてしまいますよ」
ヤメテ。ドコカヘ行ッテ。モウ放ッテオイテ。
骨ばった長い指がそっと濡れた毛並みを撫でる。 身をよじろうとしたのだが、ずっと何も食べていないせいで弱った体は自分の意思で動かすことすらままならなかった。
イヤダ。モウアンナ思イハ嫌ナノ。
「おいで。一人じゃ寂しいでしょう?」
こちらの思いなど欠片ほども気づかずに、ずぶ濡れの体をそっと抱き上げ、人間は両腕で降りそそぐ雨から守るかのように抱え込んだ。
「連れてくのかよ」 「ええ。だって、このままにしておけないじゃないですか」 「ったく。優しいこった」
「一人が寂しいのは、ヒトだけじゃありませんから」
「あ、エルも抱きたーい」 「いいからお前は歩け。もう転んでも起こしてやらないからな」 「わかってるもん」
変な三人組は再び歩きはじめた。今度は走らずに、雨も気にせずゆっくりと彼らのペースで。
人間の腕の中は暖かくて、レリスはやがて暖かな眠りへと落ちていった。
フィオルがいた設定での出会いの話っぽい。ファイル名は捨て猫でした。そのまんまだなー。
|
..2007/11/5(月) No.27 |
|